湊かなえさんの「高校入試」を読みました。
入試ってこんなにドラマティックなイベントだとは知りませんでした。ミステリーになるほどとは・・・
いえ、当事者にとっては大変なイベントですけどね。失礼しました。
でもこの作品を読んだら、ついそう言ってしまいたくなります。
「高校入試」概要
この作品はもともと、ドラマの原作・・・ではなく、もともとはドラマの脚本として書かれたものです。
しかも作者の湊さんは、ドラマの脚本は初執筆だったそうです。
ドラマの放送が2012年10月開始、それに合わせて「小説野生時代」にシナリオが掲載され、ドラマ終了に合わせて角川書店よりシナリオ版が刊行されました。
湊さんはその後シナリオをもとに小説として書きおろし、2013年6月にこの作品が刊行されました(2016年に文庫化)。
「高校入試」ストーリーかんたんに
「入試をぶっ潰す」という物騒な書き込みがネットの掲示板に書かれた中での高校入学試験。
この作品の舞台となる地元の名門校とされる公立の進学校の入試中に、ケータイ電話が鳴るというささいな事件が起こります。
それをめぐってネット掲示板や学校では大騒ぎ。同窓会会長(息子が受験生)や受験生の母親が学校へやってきては騒ぎ、採点中の教員たちは答案用紙が1枚足りないとまた大騒ぎ。しかもこのドタバタがなぜか、ネット掲示板にダダ洩れ・・・。
誰がやったのか?
容疑者は全員。
謎が謎を呼びやがて、教職員や受験生、受験当日学校に忍び込んでいたことがばれた在校生に同窓会会長、受験生の保護者のさまざまな思いやくすぶっていた人間関係などが明るみになっていくうちに真犯人がわかる・・・という感じのストーリーです。
「高校入試」レビュー
ミステリーを読んだら必ずこうなるのですが・・・
後半一気読み。
そしてミステリーを一気読みした後は夜明けが来たかのような爽快感?があります。
事件としては「なぁんだ、試験中にケータイが鳴った程度のことじゃん」って思ってしまいそうなのですが(実は他にも別の些細な事件も起こるんですけど)、がっつり引き込まれて読んでしまったのはたぶん、この小説の構成が、つい読みすすめたくなる構成だったからかも。
と言うのはこの作品は、ネットの書き込みという時系列があり、時系列通りに事件のようすや登場人物たちの心境、他の人物に対する思いなどが登場人物全員がかわるがわる語られるという構成になっています。
要するに登場人物全員が交替で読者に状況説明するという感じ。
シーンごとに語り手が代わるので最初は「誰の視点か決まってないと読みにくくないかな~」と思ってましたが、語り手が変わるおかげで全体像が見えるようになって、気づけば自然に概況がわかるようになっていたんです。こんな進行の仕方があるんだなぁと思うと同時に、作者さんの構成力のすごさにただただ感動です。
作中、起こった事件のひとつ「ケータイが鳴った事件」について保護者が怒鳴り込んできて、釈明しろ、記者会見しろというのが笑いました。
このシーンは物語の中盤で登場するのですが、ここまで読んだ時、「え、ひょっとしてこの話、三谷幸喜風のコメディに展開したりしない?」とちょっと心配になりましたが、さすがにそんな展開はなく無事解決へと運ばれました。
湊かなえさんについて
1973年広島県因島生まれ。元家庭科教師。結婚、出産を経てその後脚本家を目指し、2007年に「答えは、昼間の月」で創作ラジオドラマ賞、同じ年に小説「聖職者」で小説推理新人賞を受賞し、小説家としてデビュー。
その後2009年「告白」で本屋大賞(2010年に映画化)受賞作多数(以下、作品紹介とともに記載)。
読後に嫌な気分というか、後味の悪さを感じるミステリーを「イヤミス」と呼ぶようになりましたが、この言葉が生まれたのは湊かなえさんの作品から。
ミステリー好きに好きな作家をきくと湊かなえさんの名前はかなりの確率であがるぐらいの作家さんです。
私も最近少しずつ読書習慣を復活させつつありますが、好きな作家さんの一人にあげたいです。
でもそれにはもうちょっと著作を読みたいところですが。。。
参考:Wikipedia
過去に読んだ作品
ドラマで観て気になって原作を読んでみました(ドラマ放送は2013年9月)。
雪・花・月それぞれの章が連作になっていて、それぞれの主人公である女性たちと謎の男性・Kとは誰なのか?を探っていくミステリーでしたが・・・。私は先に結末を知ってから読んだのでちょっともったいなかったかも。
とはいえ、何も知らずに読んでいたら3人の女性の関係性さえ「?」なままだったかもと思うと・・・。
今はかなり内容も忘れているので、今読んだらガッツリ楽しめそうな気もするので再読してみようかな。
そういえばこのドラマで戸田恵梨香さんと松坂桃李くんが共演していた!今は二人、夫婦ですね。
これから読みたい作品
いっぱいあります。
カドフェス2021で購入してまだ積読状態ですが、読みたいと思っています。
私も高校の時放送部(美術部と掛け持ち)だったので気になります。
第6回本屋大賞受賞作品。松たか子さん主演で映画化されました。
娘を殺された中学校教師が真相を探るというストーリー。映画化された時から気になっていました。
父を亡くしたばかりの10歳の少女の元に、未来の自分から手紙が届き・・・という話。
アンジェラ・アキさんの「手紙~拝啓、十五の君へ」を思わせる話なのかなと思い、気になっていますが、たぶんそんな話ではないんでしょうね。
母と娘の関係について考えさせられそうな話っぽいのが気になります。
母の手記と娘の回想で浮き彫りになる二人の関係・・・ってことはお互いかなりのすれ違いや思い込みがあるのかも・・・と思うとおそらく読んだらめっちゃ考え込んでしまいそうな予感もします。これぞイヤミス、な話なんかな。
ナツイチ2021にありました。第29回 山本周五郎賞受賞作。
Amazonのあらすじの一文にぞっとしつつも、読みたくなりました。
「善意は、悪意より恐ろしい」
まさにそのとおりと思うだけに、おそらく読んだら納得なのかもしれません。
過去の事件の真相が、手紙のやりとりの中で明かされるというミステリー。
対談形式の本は苦手なのですが、こういう往復書簡で進行する小説は好きなんです。我ながら不思議。
書き手の主観が交差するという点では「高校入試」(手紙ではないけど)と共通するところがありそうですね。
幼いころに失踪した姉が帰ってきた。けど、なんか違う。ひょっとして別人?
どうやって真実を突き止めるのか気になるので読んでみたい。
ドラマから小説化
前述のとおり、この作品はもともとドラマの脚本として書かれていました。
最近はドラマの再放送を観る機会が少なくなっているので、再放送のチャンスがあるかどうかはわかりませんが、されるとしたらフジテレビかBSフジでしょう。
DVDも出ているようなので、レンタルを利用したら観れますね。ドラマ版も見てみたいという方はチェックしてみてはいかがでしょうか。